新型コロナウィルス対策特集 その1.対応策と今後の予測

2020年5月22日

GWが明け、一部都道府県では緊急事態宣言の終了が聞こえ始め、ようやくコロナウィルスによるショックが落ち着いてきたころでしょうか。
 
もちろんまだまだ休業が続いているホテル・旅館も多く、なかなか営業再開の目途がたたない、新規予約が入ってこない状態が続いていると推察されますが、4/7の緊急事態宣言の発令および4/16の対象地域の全国拡大からの一種のショック状態からは抜け出しつつあるように感じます。
 
今回、弊社観光・宿泊ビジネスチームでは、【新型コロナウィルス対策特集】として情報発信を始めるにあたって、まずこのショック期間に取り組んだ対応を振り返り、整理することで、もし未対応の施設や、再開に向けて準備中の施設の参考になればと思います。

┃新型コロナウィルスで直面した3つの経営課題

さて、今回の新型コロナウィルス対策ですが、大きくは【衛生対策】【資金繰り対策】【営業対策】の3つが存在し、地域の感染拡大状況によって焦点が移行していきましたが、いずれも意思決定と実行のスピードが要求され、日頃の経営・運営品質が問われる1ケ月強だったように感じます。

┃ホテル・旅館の衛生対策

第16回新型コロナウイルス感染症対策本部(3/1)後の安倍総理の発言から、そのリスクが広く認識され、シティホテルでは、3月初旬からのビュッフェ休止や、トング類のこまめな交換など料飲部門から対策が先行していきました。その後、宿泊部門にも対策が広がり、3月上旬までに館内対策とオペレーションを固め、衛生備品・消耗品の調達・手配を完了させました。弊社では「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養のための宿泊施設確保業務マニュアル」を参考に衛生対策のチェックリストを作成し、各施設で運用を始めつつ、withコロナの旅行潮流である「安心・安全」「少人数・短期・近距離」を見据えて、情報発信をしてもらっています。チェックリストの一部を紹介しておきます。
 
宿泊客のグループ間に2m以上の距離を確保できる待機場所を設け、チェックイン時に行列が発生しないよう動線を工夫する。
チェックイン時に宿泊客に対して新型コロナウイルス感染症に関する情報提供を行うとともに、発熱など体調に異変が生じた場合は必ず申し出るように伝える。
チェックイン時にアンケートで発熱や倦怠感や息苦しさ、咳等の症状の有無を確認し、発熱がある場合は体温の測定を依頼する。
宿泊客から体温計の貸出要望に対しては、衛生的管理への十分な配慮のもと貸与し、宿泊客の健康管理に積極的に協力する。
館内に宿泊客の密集が発生しないよう、食事時間や入浴時間の調整を行う。
食事提供は、部屋食又は個室対応ができない場合は、レストランで宿泊客のグループ間に少なくとも2m以上の距離を確保した上で同一室内に一度に入室する人数を制限する。
共用スペースについては、利用の都度アルコール消毒を行い、次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は拭いた後で水拭きする。
料理は、宿泊客に取り分けをさせず、従業員が1人(皿)単位、又はグループ単位でサーブする。
大浴場の混雑が想定される時間帯には、入口に従業員を配置し、同一浴室内に一度に入室する人数を制限する。
宿泊受付は、上記の対策が確実に実施できる範囲にとどめる。

┃ホテル・旅館の資金繰り対策

感染拡大が先行していた北海道など一部の地域を除くと、全国の多くの地域においては3月までは決して順風満帆とまではいかなくとも、比較的堅調な売上・稼働を維持していた施設が多かったはずです。
営業的な課題はマーケットの新規供給増による需給バランスの悪化を背景とした成長の鈍化であり、宿泊客に対する提供価値の見直し、他施設との差別化が焦点でした。
 
この潮流が一気に変わったのが、4/7の緊急事態宣言の発令と4/16の対象地域の全国拡大でした。
3月中もインバウンドセグメントやイベント自体の中止による団体セグメントのキャンセルが発生し、新規予約と予約キャンセルの逆転、オンハンド・リバランスの減少傾向は始まっていましたが、4月以降はその動きが国内・FITセグメントにも広がり、減少スピードが加速していきました。
 
結果として4月売上着地は前年対比10~50%くらいが多く、一気に資金繰り懸念が発生した印象です。前年比の強弱は地域差もありますが、団体比率・インバウンド比率が高い施設やRPIの低い施設ほど、落ち込みが強く、これまでの営業戦略の一側面が反映されました。
 
さて緊出した資金繰り懸念ですが、日常的な経理作業と売上見込に基づく資金繰り見通しから3月内より対策に着手しました。
弊社では、各施設の経理担当者および担当税理士とコミュニケーションを緊密化し、日々変化する支援制度の情報収集を進めながら、資金見通しおよび対策について方針と優先順位を策定しながら、日々の実績から資金見通しを常に更新していきました。
また3月下旬には国内ロックダウン説が流れ、4/7の緊急事態宣言からはオンハンドの減少スピードが加速しましたので、3/28の雇用調整助成金の助成率引き上げを受けて、資金見通しを元に休業判断を追加検討しつつ、スタッフへの雇用方針説明を出来るだけ早く、丁寧に実施してもらいました。
 
資金繰り見通しの作成・更新
オンハンド・リバランスの日次チェックと予約受付日、発地ごとのセグメント集計
各金融機関の制度融資(セーフティネット保証・新型コロナウイルス感染症特別貸付など)
各金融機関の利子補給制度
持続化給付金
自治体ごとの休業補償制度
雇用調整助成金(スタッフ面談も)
各取引先との支払交渉・契約見直し休業判断

┃ホテル・旅館の営業対策

過去のSARSや東日本大震災時の福島第一原子力発電所事故時の経験から「近隣・地元」「FIT」の堅調傾向は早い段階より認識していましたので、宿泊ビジネスの収支構造の特徴である大きな固定費と比較的高めな限界利益率を踏まえ、県内在住の顧客名簿を対象とした食事ウェイトを落とし宿泊料金を抑えた直販限定の宿泊企画とFB部門のテイクアウト・デリバリー強化に努め、施設管理上、最低限必要なスタッフ数で運営しつつ、一定度の収入を確保し、日々のキャッシュアウトの縮小を図りました。
弊社では、施設ごとの総客室数と収支構造をもとに最適な企画内容と料金設定、そしてオペレーション体制を提案し、短期的な資金流出の低減策と、近隣ゲストとの関係性維持と将来の育成策として展開してもらっています。
 
予約分析によるストアロイヤリティ評価と名簿化
オペレーションの簡素化固変分解に基づく、限界利益率とBEP、休業判定ラインの把握施設特性(施設規模と収支構造)を踏まえた地元向け企画の造成・発信ゲスト対応と、ストアロイヤリティを高め、次回利用を促す動線準備

┃今後のトレンドとまとめ

まだ先行きの見えない状況の中で、日々不安を抱える施設も多いと思いますが、少しでもその不安を具現化し、原因と対策を取り組むきっかけとなればと思い、整理してみました。
施設によってはまだ有用な部分もあると幸いです。
 
そして、今後のトレンドですが、やはり未知の体験や価値を求める「旅への欲求」はこれからも続くと考えています。
どんな体験・価値を提供できるかが、施設の個性・オリジナリティですので、その提供したい「何か」を見定め、磨き続けることが、単純な需給バランス内の市場競争から抜け出すポイントであることは、今までもこれからも同じのはずです。また「少人数」・「短期」・「近距離」はあくまでポートフォリオの問題であり、やはり稼働率という在庫特性を抱える以上、室料が固定費回収の生命線であることは変わりませんので、一部のスモールビジネスを除くと「少人数」・「短期」・「近距離」を長期的な軸にするのはやはり難しいと考えます。
 
一方、古代より起源をもつ宿泊業の基本機能である「安心・安全」への責任は強くなり、価値の1つとして認められる動きが出ています。(台湾のホテルに対する衛生基準認証制度や、ハイアットによる徹底した清掃と消毒、感染症予防プログラムを通じて世界的な衛生基準であるGBACの認証など)
この「安心・安全」への責任拡大を経営の負担増と認識するか、効率性・生産性を高める選択肢が増えたと認識するかが、アフターコロナでのホテル・旅館の経営に大きく影響するといえるでしょう。

著者プロフィール

山本 真輝(Masaki Yamamoto)

コンサルタントコラム

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